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第二回 松見 充康氏との対談

対談第二回 松見 充康氏氏 

松見 氏対談2P目

「社長の夏休み」

第2回対談


松見: 山本社長は夏休みとかないんですか。
山本: 今はありますけどね。その辺、そんなに、創業者なんでそんないらないですね。創業者の人ってそんな人、多いでしょう。
松見: そうそう、そうです。
山本: 全然、そんな感じですね。
松見: 盆も正月もって、ねえ。
山本: まさしく、そんな感じですね。それは休みたいは休みたいけど、じゃあ休んで、なんか人生変わるのかって、あんま変わんないですね。
松見: (笑)
山本: そんな感じですからね。そんなに、まあ、何て言うのかな。この1日休むのと、この1日仕事するんやったら、1年後、どっちが納得するかなっていうのを考えると、何て言うのかな。僕、よく単価って言うんですけど、単価で低い遊びはやんなくなりますね。
松見: うーん。
山本: だから、良くも悪くも、1人で会うよりも2人で会うよりも、3人で会ったりするし。それかまあ、仕事先とかやったら、半年とか1年ごとに会いにいったりとか。それは1年やったら、どっちも結局、アップデートするじゃないですか。
松見: はいはい。
山本: 何が違うや、何がいいやとか、話したりとか。1年変わると商売できるようになってたりとか、結構あるんで、それは変化しないと会っても意味ないなってね。
松見: それはそうです。
山本: 自分も含めて、変化、成長してないと申し訳ないなっていうのは。だから僕、結構、会いたい人に会いに行く時は、あんまりネタ持ってこずに、あんまりアップデートしてないんですけどっていう言い方で、会いに行っていいですかっていう言い方して。そんなん気にせず来いよって、みんなに言われるんですけど。
松見: なるほど。そんな淡泊な人おらんやろうからね。

「海外のブランドから一目置かせる方法」


山本: 話変わるんですけど、ブランドとどんな基準で契約していくか聞きたいです。儲かりそうやったからやるんじゃないですか。だって、一つやるってやられて、会社にとって大決定ですよね。
松見: そうですね。
山本: 自分の子どもみたいなもんやから、自分の子どもにしたいけど、あんまり面倒見んっていうのはないですもんね。
松見: やっぱり幾つも、複数ブランドやってると、良い、悪い、出てくるじゃないですか。
山本: 出てくる。
松見: ダウントレンドになってくるやつも出てくるんで。
山本: 分かるんすか、やっぱり。
松見: 分かります。で、それをどこで見切るか。
山本: 契約では2年っすよね。
松見: 3年から5年です。
山本: あ、そんな長いんですか。
松見: 大体、トライアルで1年から、長いところで2年、4シーズン。で、本契約で3年。あと、1年の延長はありとか、いろんなのがある。
山本: 例えば、まあ、あんまりないと思いますけど、1月1日にうちとやらんかって話になったら、契約をただ10月にしたとしたら、その次、仕入れるのって、もう次のやついつなんすか。
松見: えーと、10月に決まったら、次の秋冬ですね。
山本: 秋冬ですよね。そっから、1年、2年やって、まあ、どうせ、2、3カ月やるうちに、ああ、そうか、そこからローンチせな駄目ですよね。
松見: そうです。で、まあ、2年のトライアルなんかすぐ……。
山本: すぐですよね。
松見: 1年経つか経たないうちに、本契約に進むんかどうかという確認に入るんで。
山本: どこで見極めるんですか、それはやっぱり。
松見: 難しいところですね。交渉のやり方とすると、ミニマムギャランティー。どうしてもこんだけ買えと。それは……。
山本: いらんすよね。
松見: すごく嫌がる。それは飲まない。
山本: あ、こっちが嫌?
松見: はい。
山本: それは嫌ですよね。
松見: 飲まない。飲まずにターゲットという括りにしてしまう。
山本: どういうことですか。
松見: ターゲットっていうことは、ミニマムじゃないんで目標です。
山本: ああ、なるほど。
松見: で、もし、それに大幅に、半分しかいかないとかってなった場合は、双方が誠意を持って話し合うとか、そういう文言を付けてます。
山本: なるほどね。
松見: だから、そこで結構、もめるんです。
山本: 向こうはだってもう……。
松見: 向こうはミニマムって言いますから。
山本: もうサインしたら、買うてくれって話ですもんね。
松見: そうです。極力、ミニマムは、例えば、前年の実績があるとか、もう既に10年からやってると、ここらでええかげんにミニマム設定させてくれよという場合は、確実なところで飲みます。
山本: なるほど。
松見: 全くの新規の場合は、まずはトライアルから。それはもう鉄則のようにしてます。でもね、メーカーによっては嫌がるんですよ。おまえのとこぐらいの規模の会社が、なんでトライアルなんだと。
山本: 何て言うんですか。
松見: その時はさっき言いましたように、市場は困難でゴールがこんな状態でっていうのを不定期に、例えば繊研とかブランド年鑑のやつを訳して、主要なところ、送るようにしてるんです。メールで、パワーポイントにして。
山本: へえ。それはすごいですね。
松見: パワーポイントにしてね。で、それを必ず持つようにしてる。持って、新規のとこ行ったら、こういうものを不定期やけど送ってるからというのを見せると、大体、OKなんですよね。大体、できます。
山本: へえ、それはめっちゃ意識高いですね。向こうからしたら、だってイタリア語の繊研新聞とか、日本語のを訳してるやつとかだったら、めっちゃおもろそうやん。
松見: ところがね、インターネットでね、日本のマーケット事情とかも向こうは向こうで見れるんですよ。そしたら、そういうことに、ま、たけてるやつは日本の株価が上がってる、消費の水準も上がってる、中国人が来てやたらめったら買いよる。なのに、全然、言うてることと違うやないかと。そう言ってくるところがあります。その時は、あんたたちが受け取ってる情報はどっから出てんのと。どれほど正確なのというのを証明してくれと。
山本: (笑)めっちゃ嫌な営業っすね。
松見: 証明できない。
山本: それはすごいっすね。でも、ちょっと、日本人っぽくない言い分ですね。
松見: そうですね。しないですね。
山本: そこまで突っかからないですもんね。
松見: だから、幾つも武装しておく必要があると思います。
山本: それは確かに、ミスター松見は、ちょっと一筋縄ではいかんぞって話になるっすよね。で、その後は、6年マックスマーラの西日本やって、ミラノ行って……。
松見: 4年マックスマーラ東京にいて、転職したんです。フェンディ、ディオールに。
山本: ふーん。フェンディ、ディオール。それはなんで転職したんですか。
松見: うーん、まあ、もうちょっと交流をやってみたいなと。
山本: え、幾つですか。
松見: えーとですね。
山本: 45とか。
松見: いやいや、そこまでなってはないです。42かな。42か、43。
山本: 僕ぐらいですね。
松見: 42か、43ですね。で、やっぱり当時はプロスポーツ選手と一緒で、自分の価値が金額というのもあったんです。恐らく、その当時からかも分かりません、ヘッドハンターっていうのが、恐らく出始めたんだと思います。
山本: 目付けられたわけですね。
松見: 僕はミラノにいるときに、ヴィトンのパリの本社から話、もらったんですよ。僕、パリの本社、行ったことあるんですよ、面接に。
山本: すげえ。
松見: でも、前も言うたか分かりませんけど、ヴィトン、嫌いやったんで。
山本: なんで、嫌いなんすか。
松見: あの、お客さんがこれくださいで売れてたブランドなんです。お客さんの方が商品を指定して買いに来る。だから、別に販売をする必要がない。販売をする行為が必要ないんです。売れたものを処理するだけで良かった。
山本: 手厳しいですね。まあでも、そうですね。
松見: そうですよ。僕ら、卸からずっとやってるんで。
山本: ああ、そうだ、ちゃうわ。それはちゃいますね。
松見: 全然、育ってきた環境、違うんで。
山本: ぬるい。ぬるいっていうか。
松見: いや、そりゃ、憧れもありますから。当時の話は、例えば、御堂筋の角にある大きな店ができる前でしたからね。で、ああいう店、いわゆるトータルショップをこれからつくっていくから、そこのトータルショップを、全部を見てくれる責任者になってくれと。
山本: えー、めっちゃでっかい。
松見: だから、社長、副社長、その次でどうやって話もらったんですけど、全然、ヴィトンに興味ないから。
山本: (笑)めっちゃおもろい。
松見: 2回、話もらったんですよ、ヴィトンの話も。
山本: すごいですね。
松見: 今思えば、受けといたら良かったなと……。
山本: いやいやでも、それはでも、まあ、違うんじゃないんすか。
松見: ただ単に、そういうのが嫌やったんですよ。
山本: ああ、なるほどね。
松見: 自分には向かんと。
山本: なるほど。でも、その感覚はやっぱり、僕が言うのも偉そうですけど、正しいんじゃないですか。僕なんか、いろんな話をもらいますけど、やっぱり在庫が大好きみたいな風に思うんで。で、しかも、あの時ああやっときゃ良かったなってのは、商売に関しては意外と思わないんですよね。だから、それは素敵やと思います。で、フェンディ、ディオールはなんでいいと思ったんですか。
松見: フェンディはやっぱり、イタリア人の社長やったんですよ。
山本: うん。
松見: で、その人も転職して間がなくて。
山本: 日本の社長がですか。
松見: あの、イタリアの社長が。イタリアのフェンディ社の社長。で、イタリア語だしいいわと思って、フェンディの話をもらって、ヴィトン断ってフェンディ行くんですかとは言われましたけど。
山本: 誰に。
松見: 同じグループですから。ヴィトンの人に。
山本: そうじゃ、ボケって。(笑)
松見: で、フェンディでお世話になったんです。1年お世話になったんですけど、当時、ディオールの社長が日本人で……。
山本: その違いはなんやったんですか。
松見: フェンディとディオールの違いですか。
山本: ヴィトンじゃなくてフェンディがいいと思った理由は。
松見: イタリア人だったから。
山本: 商品とかじゃなしに。
松見: ま、商品はアオイさんがやってたんで、まだ卸の匂いがあったんですよ。ヴィトンは全く卸の匂いがないんで。
山本: なるほど。でも、それはイタリアで働いてくれってことですか。
松見: 違います。
山本: 日本で?
松見: 日本で。
山本: じゃ、日本のフェンディ・ジャパン。
松見: フェンディ・ジャパンの取締役の営業本部長やったんです。
山本: なるほどね。
松見: で、社長がロエベを兼務してるフランス人だったんで、全くフェンディのことを見なかったんで、ほとんど自分でやらなあかんかったんですよ。
山本: ふーん。
松見: で、1年経ってパリの本社の人事も変わって、当時、ディオールの社長が日本人で、フェンディの社長が兼務ということで、ほぼほぼ、まあ、留守状態ですから。この日本人の社長をフェンディに持っていこうという動きになったんですね。当時、言われたのは、僕と社長との動き方とか、仕事の仕方が似てるからおまえが決めろと。
山本: (笑)
松見: 僕にね。
山本: それ、本社が言ってくるんですか。
松見: 言います。
山本: めっちゃおもろいな。それ、どういうニュアンスなんですか。どういうメールのニュアンスで来るんですか。
松見: メールじゃないです。直接。
山本: 電話で?
松見: いやいや、直接会って。ミラノ行ってたんです、仕入れに。だからその時に、当時、フェンディとディオールをやってたアルノーっていう、一番偉い人の右腕の人なんです。マイケル・バーグっていうんですけど。この人とは仲良くさせてもらってたんで、直接話しされて、おまえ、三つ選択肢をやるからどれか選べと。
山本: めっちゃカジュアルやな。おもろいわ。
松見: で、フェンディに残ったら日本人の社長の下で働いてもらわなあかんと。ただ、俺は、これは賛成したくないと。二つ目がヴィトンと。また言ったわと思ったんですけど。
山本: めっちゃおもろいな。
松見: それで三つ目がディオールやったんですよ。
山本: はい。
松見: なんでディオールやったかというと、ディオールには日本人の社長の後に、フランス人で日本には全く来たことがない、日本のことを知らないフランス人を持ってくると。そいつをサポートしてくれという話やったんです。で、僕は三つ目を選んだ。
山本: なるほど。なんでですか。
松見: やっぱりフェンディは、その人とはもうよく知った仲なんで、まあ、確かになと。
山本: 読めた感じですか。
松見: 思いましたし、ヴィトンは2回断ってるのに、3回目でOKするのは……。
山本: なんか折れんの、嫌ですね。なんか、やっぱ行きたいんやみたいな。(笑)
松見: そうそうそう。
山本: それじゃ、嫌っすね。何となく、分かるわ。
松見: ディオールと言えば、やっぱりそれなりに知られてるし、ルイ・ヴィトンの株主でしたから。だから、ルイ・ヴィトンを持ってるのはクリスチャン・ディオールでしたからね。だから、そこがいいかなと。
山本: まあ、本家本元やし。
松見: 良かったですよ。当時、着いてすぐに、東京の晴海通りの店がオープン。それから大阪の心斎橋、オープン。名古屋の駅前とオープン。三つ、でかいビルのオープンに立ち会わせてもらったんでね、やっぱりええ勉強になりましたわ。
山本: へえ。それはもう、役職としては。
松見: 僕は、副社長です。取締役で副社長。
山本: そうか、フランスの人が……。
松見: 社長ですから。
山本: それでフランスの人って仕事するんですか。
松見: その人は真面目で、僕が年下でしたけど仲良くしてもらって。ものすごい仕事する人でした。

「日本法人の苦労」


山本: どんな仕事したんですか。僕、ちょっと想像つかないんですけど。
松見: あのね、一つはね、ああいうLVみたいな大きな会社は、特に社長職になってくるフランス人、大体がフランス人ですけど、この人たちは、まあ、政治家みたいなもんですわ。その人らに対して政治的な動きで日本の市場はこんなんですよとか、アメリカの市場はこんなん、と。さっき言った日本の状況、こんなんですよっていうようなんを、もっと大きくしてプレゼンするんですよ。
山本: ああ、なるほど。
松見: だから、武装してしまう。
山本: なるほどね。
松見: で、こいつに任せとこうっていうのを盤石にさせるんです。
山本: ちょっと、でも、サラリーマン的な感じですね。
松見: そうです。もう、明らかにサラリーマンです。
山本: そうですね。
松見: 2年、3年はそこにおりますから。で、定期的に来日したり。
山本: あ、上の人が。
松見: それはもう、すごいですから。大名行列になります。
山本: え、どういうこと?
松見: すごいですよ。アルノーとかが来るとなると、例えば、化粧品もやってますでしょ。で、スピリッツってアルコールもやってるでしょ。で、ラグジュアリーのグッズ、やってる。で、時計やってます、宝石やってます。だから、来て視察に回るんですよ、全部。で、路面店ももちろん回ります。百貨店も回るんですけど、いろんなものをやってるから、スピリッツはさすがに回りませんけども、化粧品からずっと回るんです。それから、競合するブランドがありますよね。ディオールには、例えばですけど、資生堂とかがあるとするじゃないですか、隣に。ゲランがあるとか。そしたら、ディオールのカウンターが、変な話、1センチでも下がってたら嫌だから、1センチでも前出せと。
山本: めっちゃ面白い。
松見: それとかね、什器がちょっと当たって傷が付いたとするでしょ。これ、タッチアップせえと言って……。
山本: きれいにしろということですか。
松見: 全部、修理するんですよ。そこで補充するの。だから、1回の来日でする補修費用って、400万ぐらいかかりました。
山本: (笑)すごいな。
松見: それで、きちっと見てくれんのかなと思ったら、ものの10秒のときもあるし。それこそ、声を掛けられてよくやったとかいう時もあるし、その時によって違います。そんなんがあって、御前会議がでかい会議室であるんですよ。
山本: なるほど。
松見: そこでプレゼンせなあかんですよ。
松見: パワーポイントで。だから、20、30ページにわたってかな。社長の持ち分と僕の持ち分とで分かれてて、やるんですよ。で、何も言われなかったらOKなんです。ぐずぐず言い出したり、なんか言い出すとややこしく。
山本: どこも一緒ですね。どこも一緒や。松見さんはぐずぐず言われなかったんすか。
松見: ぐずぐず言われたこともありました。
山本: 年に1回、来るんですか。
松見: 1回か2回。
山本: 2回も来んねや。
松見: 来ます、来ます。
山本: 結構、回ってはりますね。
松見: 大体ね、でかい店はヴィトンかディオールなんで、ヴィトンかディオールでシャンパンを飲みながら、サンドイッチで軽食を食べて出てくんです。
山本: 大阪、来るんですか。
松見: 来ます、来ます。必ず来ます。
山本: ここはオフレコで(笑)。いや、でもまあ、それはだって、機嫌損ねないほうがいいすもんね。
松見: いやあ、そうです。
山本: それが良かったらどうなるんですか。単に評価になるだけって感じですか。
松見: あの、良くやってるなと。だから、まあ、政治家ですわ。
山本: まあ、人事評価ということですよね。
松見: その代わりね、LVって会社は成果に対して必ず払うんで。
山本: あ、なるほどね。
松見: はい。
山本: でも、いいっすね。何に使ったんですか。
松見: うーん、家のローン返したり、車買ったりですね。
山本: 嫁さんも喜ぶお金ですね。あんたー。
松見: いや、でもね、その後、バレンチノで社長したりしたじゃないですか、アエッフェで社長したりと。当然、ポジションが上がるとサラリーも経済状況も全て、よくなりますけど、休みないです。
山本: あ、そうですか。
松見: ほとんどないです。休みはどうしてたかというと、本社が休んでる期間、だから夏休みと冬休み。ここで2週間とか、まとめて……。
山本: あの人ら、めっちゃ休みません?
松見: 休みません。
山本: 休まないんですか。
松見: 休みません。それこそ、もう毎日、電話はかかってくるし、メールとかじゃないです。電話なの。必ず電話なんです。
山本: なんでなんすか。
松見: どういう状況かってのを確認するために、電話かかってくるんです。
山本: 全然、時間違うじゃないですか。
松見: 違います。だから大体、向こうが朝、日本時間で夕方4時頃、1回かかってくるんです。で、土日も必ずかかってきます。
山本: あ、そう。誰がかけてくるんですか。
松見: 大体、COOです。
山本: そのブランドの。
松見: ナンバー2、ナンバー2です。
山本: ああ、なるほど。その人、マメっすね。
松見: マメですよ。あれだったら、小売りの会社ですもん。100パーセント小売りの会社だから。
山本: そう言われるとそうですね。なんかブランドって、確かに、そう言われたらそうやな。それ、何て答えるんですか。今日はもう、何て答えようかなって思ってるんでしょう。
松見: そうそう。でね、笑い話ですけど、きょうは月曜日やからって言おうかとか、雨やとかね、暑いや、寒いや、台風やと。
山本: (笑)じゃあもう、数字は分かってるんですか向こうは。すごいなそれ。
松見: でも、当日、例えば、きょうの売り上げがきょうの夕方の4時で分かってるかっていったら、分かってないんですよ。だから、彼らの関心はきょうの売り上げと、このバッグ、何個売れたかとか。その新しくローンチしたバッグ、初日で何個売れてるとか。
山本: それは気になりますね。
松見: そんなの、売れてるわけないじゃないですか、そんなもん。
山本: そうやね。
松見: それもまあ、月曜日としたら、余計売れへん。なんで売れへんのやと言われます。
山本: なんで売れへん。
松見: なんで売れへんねやっていう話になるんで、いやいや、月曜日ですと。
山本: 月曜日、おまえ買う気なるかと。
松見: で、今日入ったばっかりや。通常、月曜日の朝一に、お客さん、買い物はしませんと。
山本: それは当たり前ですよね。
松見: はい。
山本: そやなって。
松見: それも、いやあ、何かが問題でこうでああでって言うとややこしくなるんで、デリバリーされませんでしたとかね。違う理由付けるよりも、そういう普通の理由付けといた方が納得するんです。
山本: そりゃそうやねっていう。でもまあ、基本的には人気なんで売れますもんね。
松見: そうです。
山本: じゃあ、その後、松見さんはフェンディ行って、1年でディオールで。ディオール、何年やったんですか。
松見: ディオール、3年いました。
山本: そっから次はどこ行ったんですか。
松見: バレンチノ・ジャパンです。そこ、社長でした。
山本: また、引き抜きですか。
松見: そうです。ちょうど50歳でしたね。
山本: それはなんで行こうと思ったんですか。
松見: 50になったら、社長になりたかったんです。
山本: めっちゃおもろい。めっちゃおもろい、めっちゃおもろいな。そうなん。(笑)
松見: ただもう、単純に。
山本: なって、それはどうでした? もっと服ですよね、バレンチノだったら。
松見: 服と、バッグが少しあったのと、靴がちょろっとでしたね。で、今でこそレッドバレンチノってありますけど、あれはレッドバレンチノの前は、バレンチノローマっていう名前やったんです。
山本: ローマ。
松見: ローマ。で、メンズはオリバーって、あの犬のマークの。
山本: あ、知ってます。
松見: 服があったんです。あれはバレンチノさんが飼ってたブルドッグなんですよね。
山本: あれ、バレンチノなんですか。ちょっと不勉強ですいません。
松見: だから、当時はやっぱり、オートクチュール。スペイン階段でファッションショーをして。でもう、いわゆる貴族のお洋服みたいな。
山本: めっちゃ高いすよね。
松見: はい。セレブは、レッドカーペットは全部、バレンチノみたいな、あれでしたから。ところが、イタリアのファンドが入ってたんです。バレンチノさんのところで経営し切れなくなってたんすね。だから、あの人は僕が入って1年たたない間に引退させられましたから。で、デザイナーも変わったりとかしましたけども。あの時の思い出っていうたら、ファンドと仕事ができたっていう。今でこそ、ファンドって当たり前に入ってるじゃないですか。でも当時は、こういう人らなんかっていう。まあ本当に、話をするといつも利益が幾ら出ると。売り上げじゃないですよ、利益が幾ら出る。利益、幾ら出せる。で、赤字はいつどうなる。
山本: みんな、言うこと一緒っすね。
松見: 結局、バレンチノの、バレンチノ・ジャパンになる前には、アオイさんとかサンフレールさんとか三井さんとか、いっぱいやってたんですね。フェンディもそうです、ディオールもそうですけど。
山本: いっぱいやってたって、何をやってたんですか。
松見: いわゆる問屋さんが絡んでたわけですよ。ディオールはカネボウさんでしたし。で、フェンディはアオイさんやったんです。
山本: あ、ジャパンはあるけど……。
松見: その前ね。やっぱりそうはいっても、買収したとしても中には社員さん、前からの人が残ってますからね。で、バレンチノの場合は卸もやってました。小売りもやってて。小売りの方は古くからの人らばっかりですわ。張り付いてんのは、店長さん。だから、その人らが1億円プレーヤーで1億の売り上げ作るわけで。1人で。
山本: へえ。販売員で。やっぱおばちゃんですか。
松見: ええ。だから、その人らはやっぱり個性も強いし、言うことも言うてこられるし。そういう人らともうまくやらないといけないし。
山本: それは大変っすね。
松見: 卸は卸で、やっぱり古い卸先ばっかりですから。そこへ新しいファンドの言うことを入れていかないといけないんで……。
山本: 揉めますね。
松見: 揉めるんですよ。洋服一辺倒では売れないからということで、バッグをやろうと。で、靴をやろうと。
山本: はい。
松見: いってもまあ、MDでいる子も洋服の経験はあるけど、バッグとか靴の経験ってあんまりないわけですよ。どうするとなった時にやったのが、伊勢丹のバッグのバイヤーをシーズンに1回、必ずミラノのショールームに呼んで、ものづくりしてもらった。まず最初に、こういうバッグのコレクションですと。これどうですかと。全然、売れませんと。何が駄目ですかと。まず大きさ、それから軽さ、それから機能性、最後プライス。四つありますよね。
山本: 重さ、めっちゃ言うんでしょ。
松見: 言います。四つを1個ずつ、半年かけて克服してですね。最終的に値段を、言われるような価格帯にして、伊勢丹で2年がかりで1階の売り場取ったんです。2年かかりました。
山本: 売れた?
松見: 売れました。だから、あそこはご存じのように、棚が3段ぐらいなんですよ。棚3段しかもらえないんですよね。囲いになってる所、あれは5億売らないと囲いの所はもらえないんで。
山本: すげえな。ほんまっすか。
松見: はい。その棚3段もらって、大体、年間の目標が1億から1億2000万。
山本: でも、クリアしたってことですよね。
松見: しました。
山本: おめでとうございます。
松見: その代わり、1階に三角ステージ、ご存じです? ありますでしょ、ちょっと。あそこをもらって、あそこで企画をしたり。これはバレンチノの前にディオールとかフェンディの時もやってたんで、ある意味ルートができてたから。どういうふうにしたら、あそこの場所もらえるかなっていうのがあったんでね。
山本: でも、あと、ものづくりに参画してもらったのが結構、あるんじゃないですか。
松見: 大きかったです。でないと、僕らはそんな、素人ですし、あの、売れるものなんて分かりませんもん。
山本: 向こうさんもやっぱり、自分らが作ったものやったら、やっぱり……。
松見: 責任あるから。
山本: ね、売りたいっすよね。それは外に謳わなかったんですか、一緒に作りましたっていうのは。
松見: 謳いませんでした。
山本: ああ、さすがにね。
松見: やっぱり、本当はその社長とか専務とか、そういうところに行く方がいいんでしょうけど、僕は敢えて行かんかったんですよ。バイヤーのところから行った方が。それでバイヤーとずっと一緒に仕事しました。
山本: なんでですか。
松見: 結局、決めるのはバイヤーなんですよ。
山本: いやまあ、そりゃそうですよね。そりゃそうだ。だって、上は現場の責任、持たんすもんね。
松見: だから、それからはずっと、今もそうですけどバイヤーと親しくしてます。上とは別に親しくせんでも、同じぐらいの年齢ですから。昔から知ってるし、そんな別に、わざわざせんでも。
山本: なるほど。で、バレンチノを3年やられて……。
松見: 2年です。
山本: 2年か。で、次は。
松見: で、アエッフェという会社が。
山本: アエッフェ? 知らんな。
松見: 製造の。アルベルタ・フェレッティとか、フィロソフィーとか。
山本: はいはい、めっちゃすごいじゃないですか。
松見: モスキーノを作ってる会社。製造の会社なんです。どっちかっていうと。
山本: OEMメーカーみたいなものですか。
松見: そうです。そこの会社が日本に支社をつくる。100パーセントの。
山本: なんで?
松見: つくりたいと。日本に進出、自分たちから進出したいと。要はアルベルタ・フェレッティとかフィロソフィーは当時、サンフレールさんがやってたんです。三井=サンフレール。で、モスキーノはブルーベルさんがやってたんです。それを100パーセント、自分たちでやりたいということで動き出したんです。
山本: よく売れてましたもんね。
松見: たまたまミラノにいる時からモスキーノは三喜商事がやってたんで、アエッフェの社長とは何回か、顔見知りやったんですね。で、そこにもう日本語話すイタリア人のコンサルが入ってて、その人とも実はドルチェ&ガッバーナの話をもらった時に、会うてるんです。前職、ドルガバの人なんですね。そういう顔見知りやということで、何人か候補者はいたと思うんですけど、僕にやってくれへんかと言われて、で、やらしてもらったんです。立ち上げを。
山本: 要はジャパン社っていうことですよね。
松見: そうです。ただ、何にもない更地からやらんといけないんで、人探しはもちろんだし、事務所探しとそれから……。
山本: 最初、何人スタート? 立ち上げ、何人ぐらいでやったんですか。4人ぐらいですか。
松見: えーと、そうだね、5人ですかね。
山本: どういう、かなり厳選しないと駄目ですよね。
松見: そうです。そんな時間的余裕もないし、事務所も探さないかんし、運送も探さないかんし、コンピューターも入れないかんし。
山本: 大変や。
松見: で、まずはお金借りにいかなあかんので。銀行……。
山本: 何でなんですか。
松見: やっぱり運営資金がいりますから。
山本: 向こう、ポンとくれないんですか。
松見: くれますけど、やっぱりそれだけではね。
山本: なるほど。
松見: わざわざイタリアにおって、例えば、クレジットイタリアーノからお金をなんぼか送ってもらおう言っても、時間かかるじゃないですか。
山本: かかりますね。
松見: 日本の当時、今はもう会社なくなりましたけど、三菱東京で頼みに行ってですね。口座開設してもらって、決算書を持ってはお金借りに行ってました。
山本: それ、でもちょっと今日、聞こうと思ったことあるんですけど、ジャパン社ができる時って、揉めないんですか。
松見: どういうことですか。
山本: 僕からしたらそこ、めっちゃ嫌いなところで、多分内情が嫌い、好きじゃないから嫌いなんですけど、日本に多分、はじめは商社が持ってきて流行らせたもんを、流行ってるからってあの人らがボワー出てくるじゃないですか。僕それ、めっちゃ、むかつくんすよね。バカにされた気分なんすよね。
松見: あのね、一つはこれで安定飛行に入ったかなという見極めを必ずしますね、メーカーは。で、もう一つは、いずれは自分たちでやりたいと思ってた可能性がありますね。
山本: それは、それとこれとは別じゃないですか。
松見: ただ、じゃあ今後、同業他社も含めて直接参入で、いわゆる価格のレベルを現地価格の1.3倍にとどめたいとか、1.4倍にとどめたいと言われたときに、卸が入ってると絶対、無理ですよね。結局、そうなると……。
山本: 戦略か。
松見: 結局、そうなると市場から放り出されると。市場に受け入れてもらえなくなる。その時が来たときに、慌てふためいてどうすんのっていう。
山本: やるぐらいやったら今からっていう。
松見: そうそう。それとPR活動ですね。
山本: の、やり方ですか。
松見: やり方と、それからお金のかけ方と。当然、違ってきますから。
山本: それはもっとやってくれということですよね、要は。
松見: だと思います。大体、ブランドそのものの売り上げの3パーセントを投資して、広告宣伝費というのは……。
山本: え、でも僕、びっくりしたのは3パーセントなんですか。
松見: 3パーセントですよ。
山本: もっと、僕、ぶち込んでるもんやと思ったけど、そんなことないんすか。
松見: 大体、3パーセントです。それはブランドによって違うんですけど、例えば200億やってたら3パーセントやったらそこそこのインパクトありますからね。
山本: 6億ですけど、なんかもっとぶち込んでるイメージやね。なんか5パーセント以上。
松見: 自分らがお金を出してやる広告と、雑誌社が出してくれというやつとは違いますから。
山本: そりゃそうか。純広だけで言うと……。
松見: ええ。実際に使う金額以上の金額が市場に出ます。で、ページの取り合いですから、1ページのそれこそ上代と下代もありますから、それは今度、雑誌社との交渉ですよね。契約社会なんで。
山本: まあ、そうですね。
松見: だから、お互いに契約を切る権利を持ってますから。
山本: なるほど。僕からしたら残念やなって感じですよね。まあ、それは。
松見: そうですね。柱になってるブランドだと、余計そうですよね。そんなん、三喜商事でもありましたよ。昔々ですけど、アイスバーグって三喜商事やってた時があってね。その仕入れのために僕ら、ヨーロッパ行ってたんですけど。行った途端に、それ、来シーズンからワールドさんに変わりましたって。
山本: え、変わりましたって言われるんですか。
松見: はい。
山本: めっちゃむかつく。
松見: ありました、ありました。
山本: へえ、まあ、そういうもんってことですね。
松見: そういうことですね。
山本: じゃ、松見さんみたいな中にいた人からしたら、怒ってもしゃあないって感じですか。
松見: もう契約を更新しないということが、やめてしまうってことなんで。ですから、6カ月前に告知してくださいとか、1年前に告知してくださいって言われたら、それはもう。例えば、買い付け金額を倍にしてくれたら続けるよって言われて、倍にできるなら倍にするでしょうけど、できないんなら続けないと思います。
山本: まあ、そういうもんなんですね。なるほど。そのアエッフェは今でもあるんですか。
松見: ないです、もう。
山本: それは。
松見: 結局ね、僕が一番しんどかったのは、アエッフェとモスキーノと、二つの会社あったんですね。二つとも一応、社長としてやったんですけど、大元のアエッフェという会社は、卸専門の会社なんです。
山本: 生産もする。
松見: 生産もする。だから、生産者利益ってあるでしょ。で、卸は商品の移動が1回だけですから。
山本: え、じゃあブランドがあって、アエッフェが生産してまたブランドに入れて、アエッフェが卸すということですか。
松見: アエッフェが商品を生産しますよね。で、生産してこれを日本のディストリビューターに売ってたんですよね。これがいわゆるジャパン社になるわけですから、ここの売買は当然、成立させるんですよ。子会社に売ってる形になるから。30パーセントほどディスカウントもらって。だから、生産者が生産者の利益取ります。で、子会社を卸客と見立てて、ここでも売り上げが立ちますから、損はしませんよね。
山本: まあまあ、絶対、損はしないですけど。
松見: 損はしませんね。ところがジャパン社は、卸もやるけども小売りもやる。そうなってくると、人もいるし場所もいるし、物流も煩雑になるし。で、在庫も抱えないといかんしということになってくるんで、儲けの構造になり切らないんですよ。
山本: なるほど。
松見: 仮にディオールとかフェンディとかみたいに、1軒の店、例えば20坪の店だったら2億はできるとなると、確実に儲かるんです。
山本: 2億もできるの、すごいな。
松見: 確実に儲かります。でも、それが1億に満たないとか、7000万から7500万で人、3、4人入れてチャラぐらいですかね。
山本: へえ、大変なんすね。
松見: だから5000万とかだと、もう真っ赤です。
山本: 何に金かかるんですか、そんなに。
松見: 人件費。
山本: まあそらそうか。
松見: まあ、一番つらかったのはその辺の、小売りの難しさっていうんですかね。その辺が十分理解してもらえなかったのが残念でしたね。新規の店も作りましたし、ポリーニって靴もやってたんで。
山本: ああ、なるほどね。
松見: あれで売り場を結構作ったんですけど、中途半端な形で終わってしまって。
山本: なるほど。その頃は何歳ぐらいやったんですか。
松見: そうですね。52から54の終わりぐらいまでですかね。
山本: その次は?
松見: 三喜です。
山本: あ、戻った。それで戻ったんや。
松見: はい。
山本: それは戻ってこいみたいな感じやったんですか。
松見: うーんとまあ、東京でもう10年いましたからね、単身で。結構、体もきつかったですし。
山本: だって、休みないっすもんね。
松見: うん。
山本: 休みマジでなさそう。
松見: で、もうそろそろ体のことも考えたら、1回帰った方がいいかなというのもあって。ありがたいことに東京だと話はあったんですけどね。まあちょっと、東京はもう勘弁してほしいなというのもあって。

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